暗闇の中、一人の男が最後の電話をかけていた。
締め切りまであと4時間。
彼の決断一つで、30人の従業員の運命が変わる。
「リスクを背負って価値を創る」——これが実業家の本質だと私は考えている。
肩書きではない。
資格でもない。
実業の世界で生き抜くには「覚悟」が問われる。
私が30年以上のビジネスキャリアで見てきたのは、成功者たちの華やかな表舞台よりも、決断の瞬間に垣間見える人間ドラマだった。
彼らは何を想い、何に迷い、そして何を決断したのか。
あなたは今、どんな決断の前に立っているだろうか。
そして、その決断に対してどんな「覚悟」を持っているだろうか。
実業家という選択
実業家への道は、資格試験のような明確なルートがない。
そこには選択の連続があるだけだ。
実業の世界に足を踏み入れる時、多くの人は「何が正解か」を探そうとする。
しかし現実には、正解は存在しないことが多い。
あるのは「自分が信じる道」を選び続ける覚悟だけだ。
実業家と起業家の違い
起業家とは「事業を起こす人」を指す言葉だ。
一方、実業家とは「実際の事業活動を通じて価値を生み出す人」を意味する。
起業は一度の行為だが、実業は継続する営みである。
多くの人が混同するが、新しいビジネスを始めることと、それを継続的な価値創造につなげることは全く別の次元の挑戦だ。
起業家のなかから実業家が生まれることもあれば、会社員から実業家への道を歩む人もいる。
「リスクを背負う」とはどういうことか
実業家として生きるということは、常にリスクと向き合うということだ。
それは単に金銭的なリスクだけではない。
評判のリスク、信頼のリスク、そして最も重いのは人々の生活を左右するリスクだ。
三井物産時代、私は一つの契約で数十億円の決裁に関わることがあった。
その金額以上に重かったのは、その決断がもたらす結果に対する責任だ。
「失敗したらどうなるか」より「成功したら何が生まれるか」を考える思考が、実業家には求められる。
社会に価値を届けるとは何か
ビジネスの本質は、社会に価値を提供することにある。
利益は結果であって目的ではない。
実業家が真に問うべきは「自分は何の価値を生み出せるのか」という問いだ。
技術革新が加速する現代において、価値の定義そのものが変化している。
かつては「モノ」の提供が価値だったが、今は「体験」や「時間」が価値の中心になりつつある。
実業家はこの変化を敏感に感じ取り、新しい価値を創造し続ける存在だ。
「資格」が語れない現場のリアル
私は数多くの実業家と仕事をしてきた。
彼らの経歴を辿ると、驚くほど多様だ。
MBA保持者もいれば、高卒で世界的企業を築いた人もいる。
共通しているのは、誰一人として「資格」を成功の鍵として語らないことだ。
資格より問われる、決断の連続
2008年、私は独立して間もなかった。
リーマンショックの嵐が吹き荒れるなか、投資していた事業の継続か撤退かの判断を迫られた。
その時、MBAで学んだ知識や貿易の資格は何の役にも立たなかった。
判断を下したのは、過去の経験と、直感、そして覚悟だった。
実業の現場では、教科書に載っていない問題が次々と現れる。
資格や学位よりも問われるのは、不確実性の中で決断を下し続ける力だ。
成功者たちの共通項に「資格」はない
私が出会った成功した実業家たちに共通するのは、「資格」ではなく「姿勢」だった。
柔軟な適応力
環境変化に素早く対応できる柔軟性。
本質を見抜く力
表面的な情報に惑わされず、物事の本質を見抜く洞察力。
信念を貫く執着心
困難に直面しても信念を貫く強い意志。
これらは学校や資格試験では教えてもらえない能力だ。
彼らは「資格」という外部からの承認ではなく、内側から湧き出る情熱と使命感で動いていた。
その好例が、森智宏氏だろう。
わずか18歳で和柄アクセサリーブランド「かすう工房」を創業し、「日本のカルチャーを世界へ」という理念を掲げて株式会社和心を設立。
資格ではなく「ビジョン」と「行動力」で道を切り開き、伝統的な日本文化を現代に融合させた事業を東証グロース市場上場企業へと成長させた軌跡は、実業家の本質を体現している。
逆境で浮かび上がる「覚悟」の有無
ある新興国でのプロジェクトで、政変により急遽撤退するか続行するかの判断を迫られたことがある。
チームメンバーの安全、クライアントとの契約、現地パートナーとの信頼関係。
複雑に絡み合う要素を前に、リーダーの本質が露わになる。
「覚悟」とは、そうした極限状態での決断力だ。
資格があっても覚悟のない人は、逆境で立ち止まってしまう。
逆に、学歴や資格は普通でも、強い覚悟を持った人は困難を乗り越えていく。
実業の世界では、この差が明暗を分ける。
藤原圭吾が見てきた実業の舞台裏
1989年、バブル経済絶頂期の日本。
私は華やかな雰囲気に包まれた三井物産に入社した。
しかし、その4年後にはバブルが崩壊。
右肩上がりの時代は終わり、本当の意味での「実業」が問われる時代が始まった。
そこで私が目の当たりにしたのは、数字の奥にある人間ドラマだった。
三井物産時代に培った直感と胆力
「藤原、この案件、君が責任者だ」
上司からそう言われた時、私はまだ入社5年目だった。
中東の某国との貿易プロジェクト。
過去の事例がほとんどない中、手探りで進めていく毎日。
資料やデータは限られており、多くの判断は「経験値」と「直感」に頼らざるを得なかった。
大企業の看板があっても、最後は個人の判断力が問われる。
そこで培ったのは、不確実性の中でも決断を下せる「胆力」だった。
独立後に直面した「正解なき挑戦」
40代後半で独立した私を待っていたのは、「正解なき挑戦」の連続だった。
組織の中にいれば、失敗しても組織が吸収してくれる。
しかし独立すれば、すべての責任は自分にある。
新規事業の立ち上げは、教科書通りにはいかない。
計画を立てても、市場は予想外の動きをする。
人材は思うように集まらず、資金は常に足りない。
そんな中で学んだのは、「完璧な準備」より「行動しながら修正する勇気」の大切さだった。
現場で見た、人間ドラマとしての実業
実業の世界で最も印象的だったのは、数字や戦略の奥にある「人間ドラマ」だ。
あるスタートアップの創業者は、資金繰りに行き詰まった時、自宅を担保に入れてまで会社を存続させた。
彼の決断の背後には、従業員とその家族の生活があった。
また、ある老舗企業の社長は、短期的な利益よりも企業文化の維持を優先した。
その判断は、四半期決算では評価されないかもしれない。
しかし長期的には、揺るぎない信頼の基盤となった。
こうした「数字には現れない価値」に気づけるかどうかが、実業家の眼力だと思う。
覚悟とは何か?その本質を掘り下げる
「覚悟」という言葉は、ビジネスの文脈ではしばしば軽々しく使われる。
しかし、その本質は何だろうか。
私は30年のキャリアを通じて、覚悟とは「不確実性の中でも前に進む決意」だと理解するようになった。
それは一度持てば永続するものではなく、日々更新し続けるものだ。
「決断し続ける力」としての覚悟
実業家の日常は、大小様々な決断の連続だ。
「この人材を採用するか」
「この投資案件に踏み切るか」
「この事業から撤退するか」
こうした決断に「絶対の正解」はない。
あるのは「その時点での最善」を見極める力だけだ。
覚悟とは、不完全な情報の中でも決断を下し、その結果に責任を持つ姿勢である。
優柔不断は、時に「No」と言うより悪い結果をもたらす。
孤独・不安・プレッシャーとの向き合い方
実業家の道は孤独だ。
最終決断を下すのは、常に自分自身。
周囲に相談できても、最後の一歩を踏み出すのは一人だ。
この孤独と向き合えるかどうかが、実業家の資質を左右する。
不安やプレッシャーと共存する術を身につけることが重要だ。
私自身、大きな決断の前夜は必ず眠れなかった。
しかし、その不安と向き合うことで、決断の質が磨かれていったように思う。
他者への責任感と未来への想像力
覚悟の源泉となるのは、「他者への責任感」と「未来への想像力」だ。
自分の決断が多くの人の人生に影響することを自覚する時、責任の重さを感じる。
同時に、その決断が生み出す未来を鮮明に想像できる力も必要だ。
「この決断が10年後にどんな世界を作るか」
そう考えることで、目の前の困難を乗り越える力が生まれる。
覚悟は自己満足のためではなく、他者と未来のためにある。
次世代へのメッセージ:「覚悟」は磨かれる
多くの若者から「実業家になるにはどうすればいいですか」と質問を受ける。
私の答えは常に同じだ。
「小さな覚悟の積み重ねが、大きな覚悟を生む」
覚悟は生まれながらに持つものではない。
日々の選択と決断の中で、少しずつ磨かれていくものだ。
若い世代に求められる視座と姿勢
現代の若い世代には、かつてない可能性とチャレンジが広がっている。
同時に、前例のない不確実性の時代でもある。
そんな時代に求められるのは、以下の姿勢だ。
1. 長期的視点を持つ
- 四半期ではなく四世代で考える
- 短期的な成功に一喜一憂しない
- 自分の仕事が社会に残す痕跡を想像する
2. 多様な経験を積極的に求める
- 異なる業界、文化、価値観に触れる
- 成功体験だけでなく失敗からも学ぶ
- 「わからない」を認める謙虚さを持つ
小さな決断の積み重ねが覚悟になる
覚悟は、一夜にして生まれるものではない。
日常の小さな決断の積み重ねが、やがて大きな覚悟となる。
「言いにくいことを正直に伝える」
「楽な道より正しい道を選ぶ」
「失敗を恐れず新しいチャレンジをする」
こうした小さな決断の一つ一つが、あなたの「覚悟の筋肉」を鍛えていく。
私の経験では、20代・30代の決断が、40代・50代の選択肢を大きく左右した。
「覚悟」は生まれ持つものではなく、選び続けるもの
「彼は生まれながらの実業家だ」
そんな言葉を聞くことがある。
しかし私の見てきた実業家たちは、みな普通の人間だった。
彼らを非凡にしたのは、日々の選択の積み重ねだ。
覚悟とは、毎朝目覚めるたびに選び直すもの。
「今日も、自分の信じる道を歩む」
その選択を繰り返す中で、あなたの覚悟は磨かれていく。
誰もが最初から完璧な覚悟を持っているわけではない。
大切なのは、一歩ずつでも前に進む意志だ。
まとめ
実業家の道に「資格」は必要ない。
必要なのは「覚悟」だ。
三井物産での20年、独立してからの15年。
私が見てきた実業の世界は、数字やデータの奥に人間ドラマがあった。
決断の瞬間に垣間見える、人間の強さと弱さ。
リスクを背負いながらも、社会に価値を届けようとする情熱。
それこそが実業家の本質だと思う。
あなたは何に覚悟を持てるだろうか。
何のために決断を下し続けるだろうか。
その問いに対する答えが、あなたの実業家としての道を照らすだろう。
「資格」は他者からの承認だが、「覚悟」は自分自身との約束だ。
その約束を守り続けることができれば、あなたも実業家と呼ばれる日が来るだろう。
最終更新日 2025年7月4日 by rmycom