「保険って、実は投資にもなるの?」。
最近、お客様からこんなご質問をいただく機会が本当に増えました。
こんにちは、ファイナンシャルプランナーの佐藤亮介です。
証券会社時代から含めて17年間、お金のプロとして多くの方の資産相談に乗ってきました。
その中で痛感しているのが、保険と投資の境界が曖昧になり、多くの方が混乱されているという事実です。
かつて保険は「万が一の備え」、投資は「お金を増やす手段」と明確に分かれていました。
しかし今、「貯蓄性」や「運用成果」をうたう保険商品が増え、その違いが分かりにくくなっています。
結果として、「思っていたものと違った…」という“誤解されやすい保険”との出会いが後を絶ちません。
この記事を読めば、あなたが得られることは明確です。
それは、保険商品の本質を正しく見抜き、ご自身の人生設計に本当に合った商品を選び抜く力です。
私の17年の実務経験から得た知識を総動員して、分かりやすく解説しますので、ぜひ最後までお付き合いください。
目次
保険はそもそも何のため?──保障と投資の違いを整理
まず、すべての基本となる「保険とは何か?」という原点から確認しましょう。
ここをしっかり押さえることが、賢い選択への第一歩です。
保険の基本機能とは
保険の最も大切な役割、それは「保障」です。
病気やケガ、死亡といった、日常生活で起こりうるものの、発生確率が低く、しかし一度起こると経済的に大きな打撃を受けるリスクに備えるための仕組みです。
みんなで少しずつお金(保険料)を出し合い、困った人が出たときに、その集まったお金の中からまとまったお金(保険金)を支払う。
これが「相互扶助」という保険の基本的な考え方です。
投資と保険の目的の違い
一方で、投資の目的は「資産を増やすこと」です。
株式や投資信託などを購入し、その価値が上がることで利益(リターン)を得ることを目指します。
もちろんリスクは伴いますが、将来のためにお金を働かせる「攻め」の手段と言えるでしょう。
保険が「守り」のツールであるのに対し、投資は「攻め」のツール。
この目的の違いを混同しないことが非常に重要です。
【目的の比較】
- 保険:万が一のリスクに備える「守り」の金融商品
- 投資:将来のために資産を増やす「攻め」の金融商品
「保障性保険」と「貯蓄性保険」の明確な区別
保険は大きく2つのタイプに分けられます。
- 保障性保険(掛け捨て型)
- 目的:死亡保障、医療保障などに特化
- 特徴:保険料が比較的安い。満期保険金や解約返戻金は無いか、あってもごくわずか。
- 例:定期保険、医療保険、がん保険など
- 貯蓄性保険
- 目的:保障機能に加えて、将来のためにお金を貯める機能を持つ
- 特徴:保険料が保障性保険に比べて割高。満期時や解約時にお金が戻ってくる。
- 例:終身保険、養老保険、個人年金保険など
この2つは、同じ「保険」という名前がついていても、役割が全く異なります。
よくある誤解:「保険に入っていれば安心」は本当か?
「とりあえず保険に入っているから安心」という声をよく聞きますが、本当にそうでしょうか?
例えば、貯蓄性を重視するあまり、万が一のときの保障額が実は足りていなかった、というケースは少なくありません。
また、必要以上の保障内容で、毎月の保険料が家計を圧迫していることもあります。
大切なのは、「どんなリスクに」「いくら備えたいのか」を明確にし、その目的に合った保険を選ぶことです。
漠然とした安心感ではなく、根拠のある安心感を持つことが重要です。
金融商品としての保険──貯蓄型・外貨建て・変額保険を比較
ここからは、「投資になる」と言われることの多い、貯蓄性のある保険商品を具体的に見ていきましょう。
それぞれの仕組みと特徴を理解することが、適切な商品選びの鍵となります。
貯蓄型保険の特徴とリターンの実態
貯蓄型保険は、終身保険や養老保険に代表される、保障と貯蓄を兼ね備えた商品です。
払った保険料の一部が積み立てられ、将来、解約返戻金や満期保険金として受け取れます。
しかし、注意したいのはそのリターンです。
現在の低金利下では、昔のように「払った保険料より大きく増える」ことは期待しにくくなっています。
むしろ、早期に解約すると「元本割れ(払った保険料より戻ってくるお金が少なくなること)」するリスクが高いのが実情です。
外貨建て保険の仕組みと為替リスク
外貨建て保険は、保険料の支払いや保険金の受け取りを、米ドルや豪ドルなどの外貨で行う商品です。
海外の比較的高い金利で運用されるため、円建ての保険より高いリターンが期待できるのが魅力です。
しかし、最大の注意点は「為替リスク」です。
契約時より円高になると、受け取る保険金や解約返戻金を円に換算したとき、価値が目減りしてしまいます。
「リターンが期待できる」というメリットの裏には、相応のリスクが潜んでいることを忘れてはいけません。
変額保険は“投資信託+保険”?仕組みと注意点
変額保険は、支払った保険料の一部を株式や債券などで運用し、その運用実績によって将来受け取る保険金や解約返戻金が変動する保険です。
まさに「投資信託と保険を組み合わせたような商品」と言えます。
運用がうまくいけば大きく増える可能性がありますが、逆もまた然りです。
死亡保険金には最低保証がある商品が多いですが、解約返戻金や満期保険金には最低保証がなく、元本割れのリスクを直接負うことになります。
手数料・解約返戻率・運用成績などの比較
これらの保険を比較検討する際は、以下のポイントを必ずチェックしましょう。
比較項目 | 貯蓄型保険(円建て) | 外貨建て保険 | 変額保険 |
---|---|---|---|
主なリスク | 金利変動リスク、元本割れリスク | 為替リスク、元本割れリスク | 価格変動リスク、元本割れリスク |
手数料 | 保険関係費用 | 保険関係費用+為替手数料 | 保険関係費用+運用関係費用 |
リターンの源泉 | 日本の金利(予定利率) | 海外の金利 | 投資対象(株式・債券)の運用成果 |
透明性 | 比較的わかりやすい | 為替レートが絡み複雑 | 運用実績次第で変動し複雑 |
特に手数料は、パンフレットを見ただけでは分かりにくいことが多いです。
保険料の中から、保障だけでなく、保険会社の運営経費などが「保険関係費用」として差し引かれていることを理解しておく必要があります。
保険を“投資”と見なすときの落とし穴
「投資になる保険」には、知っておくべき特有の落とし穴があります。
営業担当者の話を鵜呑みにせず、冷静に判断するための視点をお伝えします。
長期契約の縛りと流動性リスク
貯蓄性のある保険は、基本的に10年、20年、あるいは一生涯といった長期契約が前提です。
これは、お金が長期間固定されることを意味します。
もし、急にお金が必要になっても、すぐに引き出すことはできません。
無理に解約すれば、前述の通り元本割れする可能性が高まります。
この「流動性の低さ」は、投資商品として見た場合の大きなデメリットです。
コスト構造が不透明な商品に注意
私がFPとして常々問題だと感じているのが、コストの分かりにくさです。
保険料のうち、純粋な保障や貯蓄に回る部分と、手数料(保険会社の経費など)の内訳が明確に開示されていない商品が少なくありません。
「投資信託であれば、信託報酬が年率●%」と明記されていますが、保険の場合は同等の比較が難しいのです。
コストが見えにくいということは、知らないうちにリターンが削られている可能性があるということです。
保険販売の現場での営業トークに惑わされないために
「銀行預金よりずっと有利ですよ」
「これは保障もついて、おまけに増えるんですから一石二鳥です」
こうしたセールストークには注意が必要です。
比較対象がなぜ銀行預金なのか?本当に一石二鳥なのか?を冷静に考える必要があります。
保障は保障、投資は投資で、それぞれ最適な商品を選んだ方が、結果的にコストが安く、効率的であるケースがほとんどです。
私と同じように、大手証券会社での経験から販売サイドのあり方に疑問を持ち、顧客本位のサービスを目指して独立された経営者もいらっしゃいます。
例えば、株式会社エピック・グループの会長である長田雄次氏のような専門家も、まさにそうした問題意識からキャリアをスタートさせています。
金融庁の警鐘:「販売の質」問題を考える
実は、金融庁もこうした状況に警鐘を鳴らしています。
特に外貨建て保険など、リスクが高い商品について、顧客がリスクを十分に理解しないまま契約してしまうケースが問題視されています。
金融庁は、外貨建て保険の販売に関し、顧客本位の業務運営が徹底されていないとして、保険会社や販売代理店に対して監督を強化しています。
為替リスクや手数料など、顧客が不利益を被る可能性のある情報を丁寧に説明するよう求めています。
これは、私たち消費者側も、言われるがままに契約するのではなく、自ら学び、判断する姿勢が求められていることの表れです。
見直しのタイミングとチェックポイント
では、具体的にどのようなタイミングで、何をチェックすれば良いのでしょうか。
実践的なポイントを解説します。
こんなときに保険を見直すべき
保険は一度入ったら終わり、ではありません。
ライフステージが変われば、必要な保障も変わります。
- 結婚したとき:独身時代とは違い、パートナーを守るための保障が必要になります。
- 子どもが生まれたとき:万が一のことがあった場合の教育資金や生活費を確保する必要性が高まります。
- 住宅を購入したとき:団体信用生命保険に加入することで、必要な死亡保障額が変わることがあります。
- 子どもが独立したとき:大きな死亡保障は不要になるため、保障内容をスリム化できます。
- 退職したとき:公的保障の内容も変わるため、老後の医療費などに備える保障を見直します。
これらの節目は、保険を見直す絶好の機会です。
自分の保障ニーズをどう把握するか
「自分に必要な保障額はいくら?」これを把握することが見直しの第一歩です。
遺された家族に必要なお金(生活費、教育費など)から、すでにある資産や公的保障(遺族年金など)を差し引いた金額が、保険で備えるべき金額の目安となります。
難しければ、ぜひ私たちのようなFPにご相談ください。
NISA・iDeCoとの役割分担を考える
資産形成を考えるなら、まずは税制優遇が非常に大きいNISAやiDeCoを最優先で活用すべきです。
これらは、国が個人の資産形成を後押しするために作った、いわば「国のお墨付き」制度です。
- 保障 → 掛け捨ての保険で合理的に備える
- 資産形成 → NISA・iDeCoをフル活用する
このように役割を明確に分ける「保険と投資の分離」が、多くの方にとって最も効率的で分かりやすい解決策になります。
現在契約中の保険の確認ポイント(実践チェックリスト)
今すぐ、ご自身の保険証券を取り出してチェックしてみましょう。
- [ ] 誰が保険金を受け取る設定になっていますか?(受取人)
- [ ] いつまで保障が続きますか?(保険期間)
- [ ] どんなときに保険金が支払われますか?(保障内容)
- [ ] いくら保険金が支払われますか?(保険金額)
- [ ] 毎月(毎年)いくら保険料を支払っていますか?(保険料)
- [ ] 今解約したらいくら戻ってきますか?(解約返戻金)
この内容が、現在のあなたの状況に合っているか、改めて確認してみてください。
具体例で学ぶ!保険と投資の組み合わせ戦略
理論だけでなく、具体的な事例で見ていきましょう。
ここでは3つのモデルケースをご紹介します。
事例1:子育て世帯、教育資金と保障のバランス
- 家族構成:夫35歳、妻33歳、子1歳
- 課題:夫に万が一のことがあった場合の生活費と、子どもの教育資金の準備
- 見直し案:
- 保障:夫の死亡保障として、子どもが独立するまでの期間、割安な「定期保険(掛け捨て)」で3,000万円を確保。
- 資産形成:教育資金は「NISA」を活用し、全世界株式の投資信託などでコツコツ積立投資。学資保険よりも高いリターンを目指す。
- 医療:夫婦ともに、基本的な医療保険に加入。
事例2:40代単身者、老後資金を意識した見直し
- 家族構成:45歳、会社員、独身
- 課題:扶養家族はいないが、自分の老後資金に不安がある。
- 見直し案:
- 保障:高額な死亡保障は不要。病気やケガで働けなくなった場合に備える「就業不能保険」と、最低限の「医療保険」に絞る。
- 資産形成:老後資金準備の最強ツールである「iDeCo」を上限額まで活用。さらに余裕資金で「NISA」も併用し、積極的な資産形成を行う。
- 貯蓄性保険:加入していた貯蓄性の高い終身保険は、払済保険にするか、解約返戻金の状況を見て解約し、その資金をNISAに回すことも検討。
事例3:退職金の運用で保険を検討する場合
- 家族構成:65歳、退職したばかりの夫婦
- 課題:まとまった退職金を安全かつ少しでも増やしたい。銀行から保険を勧められている。
- 見直し案:
- 保険の検討:銀行窓口で勧められることが多い「一時払終身保険」や「個人年金保険」は、相続対策としては有効な場合もあるが、運用目的では手数料が高く非効率なことが多い。
- 資産形成:退職金は「生活防衛資金(2〜3年分)」を現金で確保した上で、残りをNISAなどを活用し、債券や株式に分散投資する方が合理的。
- 注意点:高齢になってからの保険加入は、健康状態の告知も厳しくなり、保険料も割高。安易な契約は避けるべき。
佐藤FPのアドバイス:「自分に合った最適解」を見つける方法
ご覧いただいたように、正解は一つではありません。
家族構成、年齢、資産状況、そして何より「どう生きたいか」という価値観によって、最適なポートフォリオは変わります。
大切なのは、「保障」と「投資」それぞれの目的を明確にし、最適なツールを組み合わせることです。
保険の営業担当者は保険を、証券会社の担当者は投資信託を勧めるかもしれません。
それぞれの専門家の意見を聞きつつも、最終的にはご自身の人生設計に照らし合わせて、ご自身で判断することが何よりも重要です。
まとめ
長い時間お付き合いいただき、ありがとうございました。
最後に、この記事の最も重要なポイントを振り返ります。
- 保険は「守り」のツール、投資は「攻め」のツールです。それぞれの目的を混同しないことが大切です。
- 「投資になる保険」は確かに存在しますが、手数料が高く、長期間資金が拘束されるなどのデメリットがあります。
- 多くの方にとって、保障は「掛け捨て保険」、資産形成は「NISA・iDeCo」と役割を分けるのが、最も合理的で分かりやすい選択です。
- 保険を選ぶ際は、営業トークを鵜呑みにせず、コストやリスクを自分の目で確かめる判断基準を持ちましょう。
保険や投資の話は、どうしても専門用語が多く、難しいと感じてしまいますよね。
その気持ちは、私も痛いほど分かります。
しかし、今日ここまで読んでくださったあなたは、すでに大きな一歩を踏み出しています。
「難しいから…」と諦めるのではなく、一つひとつ理解し、選択していく。
その積み重ねが、あなたの、そしてあなたの大切な家族の未来を守る、何よりの力になります。
この記事が、あなたの人生設計に合ったお金との付き合い方を見つける、きっかけになれば幸いです。
最終更新日 2025年7月4日 by rmycom