生産技術の芝田亮介と申します。
電子部品メーカーの生産技術部に18年おり、車載向けパワーモジュールの封止と放熱材の塗布を担当していました。
いまはフリーランスで、中小の製造業さんの設備選定を手伝っています。
塗布装置を選ぶとき、対応粘度と吐出量は必ず確認しますよね。
ただ、その隣に一行だけある「耐摩耗性」を、私は長く読み飛ばしていました。
意味が分かったのは、導入から半年で吐出量が合わなくなってからです。
硬い粒子が挟まれば、削られるのは装置の側です
日本機械学会の機械工学事典のアブレシブ摩耗の項に、砂粒や砥粒のような硬い粒子が接触面に介在して生じる摩耗を、三体あるいは三元アブレシブと呼ぶと書かれています。
条件も明記されています。
接触面間に硬さの差が必要で、引っかくほうの硬さが引っかかれるほうの1.3倍を超えること。
放熱材や導電性接着剤のフィラーは、まさにこの「接触面に介在する硬い粒子」です。
レゾナックが公開している各種フィラーの物性値から代表的なものを並べます。
| フィラー | モース硬度 | 熱伝導率(W/m・K) |
|---|---|---|
| アルミナ | 9 | 20〜36 |
| 窒化アルミ | 8 | 70〜270 |
| シリカ(溶融) | 7 | 1.3 |
| 六方晶窒化ホウ素 | 2 | 面方向200超 |
ダイヤモンドが10ですから、アルミナはほぼ最上位です。
これが液に混ざったまま、プランジャとシリンダのわずかな隙間を毎ショット通過していきます。
目を引くのは六方晶窒化ホウ素で、モース硬度2なのに面方向の熱伝導率は200を超えます。
装置の寿命は、材料を決めた時点で半分決まっているとも言えます。
摩耗は壊れる前に、吐出量のズレとして出てきます
摩耗が進んでも、装置はいきなり止まってはくれません。
最初に出るのは吐出量がじわじわ動く症状です。
先月と同じ設定なのに、塗布量が少しずつ増えている。あるいは減っている。
現場でまず疑うのは材料です。
ロットが変わった、季節で粘度が動いた、残量が減ってきた。
どれも実際に吐出量へ効くので、疑う手順としては正しいのです。
問題は、全部を潰しても数字が揃わないときがあることです。
容積計量式のポンプは押し出した体積で吐出量を決めるので、摺動部が削れて隙間が広がれば、その分は前へ出ずに戻り側へ漏れます。
カタログの対応粘度も吐出量も、装置が新品のときの数字です。
摩耗試験用の粉と、放熱材のフィラーは同じものです
日本粉体工業技術協会が、標準粉体を製造販売しています。
標準粉体販売のページを見ると、用途の筆頭が「機器と部品の摩耗試験、耐久試験、防じん試験」で、対象機器に電気・電子・磁気関連製品が入っています。
その品目に、JIS試験用粉体2のNo.1からNo.6があります。
中身は白色溶融アルミナです。
装置をわざと摩耗させて耐久性を測るためにJISが定めた粉と、放熱材の熱伝導率を上げるために配合しているフィラーが、同じ物質だということになります。
そう考えると、選定のときに聞くべきことははっきりします。
- 液に触れる摺動部にどんな材質を使っているか
- 消耗部品はどれで、交換周期の目安はどのくらいか
- 自社のフィラー入り材料で実機テストができるか
装置側も、ここは意識して設計されています。
たとえば高粘度材料に対応したディスペンサの仕様例では、ポンプ内の耐圧を19.6MPaまで高めたという説明と並べて、特殊な材質を採用して計量ポンプの耐摩耗性を向上させた、と書かれています。
ただ、この行は見積書の比較表には出てきません。
聞かなければ出てこない情報です。
まとめ
今回の要点です。
- 接触面間の硬さに1.3倍を超える差があると摩耗が起きる。アルミナはモース硬度9
- 摩耗は故障ではなく、吐出量のドリフトとして現れる
- JISが摩耗試験用に定めた白色溶融アルミナと、放熱材のフィラーは同じ物質
カタログの数字は初期性能です。
自社の材料で実機テストをして、摺動部の材質と消耗部品の交換周期まで確認してから決めてください。
半年後に困るのは、選定した自分ですから。
最終更新日 2026年9月3日 by rmycom